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シャワーを浴びると浴室へ消えたあの人を追い、

水に打たれながら、しばしの時を過ごしてしまった。

(少し、はしゃぎすぎたようだ…)

それがいけなかった。

          

忙しさにかまけて、体調管理を怠った自分も悪かったのだ。

ものの見事に背筋を悪寒が走る。

           

電車で帰るという彼を駅まで送り、なんとかマンションに

辿り着いた時には、頭が朦朧とし始めた。

普段、丈夫なだけに、薬など用意してあるはずもなく、

そのままベッドへと倒れ込む。

               

…体中の水分が干上がりそうだ。

一体、どこから沸きあがってくるのか、この熱、熱、熱…。

唇が乾く、喉が灼けつく。

口は水を求める魚のように喘いでいた。

              

意識を手放しかけた時、額に何かが触れた。

薄目を開けると、先程、駅まで送った彼がそこにいる。

「高耶さ…ん」

彼は黙ったまま額に手をあてがい、じっとこちらを見ている。

「…どうして…?」

どうして、戻って来たのだろうか。

自分が熱を出して、寝込んでいることなど知るはずもないのに…。

ああ…そうか。

これは熱が見せる都合のいい幻覚なのかもしれない。

           

「…高…耶さん…」

「ごちゃごちゃうるせぇ」

この幻覚は口調までまさしく彼だった。

額に当てられた手は、濡れたタオルへと換えられる。

「…あなたの手の方が…いい」

「…バカ」

そう言いながらも、彼は、こめかみ辺りの髪の毛を

指の背で、ゆっくりとやさしくなで続けている。

だんだんと気持ち良くなり、瞼が重くなった。

目を閉じていても、彼が自分を見つめているのが分かる。

             

「…水…飲むか?」

「……」

答えを口にする前に目を開けると、彼の顔がすぐそばまで来ていた。

唇を重ねて、口腔内に含んだ水を流し込まれた。

冷たい水流が、灼けた喉を潤していく。

              

一旦、離した唇を、彼は再び角度を変えて押し当ててきた。

そして、今度は水ではなく、彼の舌が侵入してきた。

舌を絡ませ、熱を奪わんばかりの強さで吸い上げられる。

「さっきより熱くなってやがる…」

彼のつぶやきが耳に入った。

(さっき…?)

それはいつのことですか?と、問い返す気力はなかった。

               

あごに彼の手が添えられ、心持ち上向かせられると、

3度目のくちづけが降ってきた。

再びの水…そして異物が流し込まれる。

水と共に飲み下すと、意識は完全にブラックアウトした。

                

どれくらい経ったのだろうか。

意識が浮上し目を開けると、彼の姿はなかった。

(やはり、幻だったのか…?)

どうやら、熱も収まり、体も起せるようになった。

頭を巡らせ、ベッドサイドのテーブルに目を移すと、

空のコップと開封したばかりの薬瓶。

                

彼が幻でなかったことをそれらが語っていた。

                  

                 

                 end.

                 

                 2003.8.12.

             濡れタオルはどーした?とか言わないように!

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