文月の琥珀
序
琥珀、という漢字を教えてくれたのは、叔父だった。
「真知に似合うような気がしたから」
十二才の誕生日、透きとおった黄茶色のしずくのペンダントを陽にかざし、
すぐには礼の言葉も出なかった姪に、叔父は優しく笑った。ガリガリで手足
ばかりが細く長く伸びてゆく身体にいささかコンプレックスを感じ、わざと、
少年のようにふるまっていた少女の心の奥を――わかっているよ、というよ
うな若い義明叔父の繊細な贈物。ようやくうつむきがちにつぶやいた照れの
漂う礼を彼はあのおだやかな深い声で受けてくれた。
「炎の中に入れると、それは生き返るんだ。もっと激しくもっと美しい炎。
燃えながら不思議な強い――」
叔父はふと言葉を切った。言葉を捜すようなその目にあの時折見せる痛みを
こらえるような苦しさがよぎって、真知の息を止めさせた。
「高貴な…とどめてはおけない気高さに満ちた香りを放つんだよ」
微笑みを取り戻しても――哀しい瞳。いつ、どんな時でもぬぐいきれないか
げりが少し色素のうすいとび色のまなざしの奥にある。
「でも燃やすなんてできないけど…」
不器用な慰めにもならない自分の言葉に真知は自己嫌悪におちいった。
「そうだね」
――ああ、ほら、あたしの方が慰められてる
優しい叔父の大きな手が頭に乗せられるのを、少女は半べそのような顔で受
けとめた。
アキ
――どうしたら…明叔父さんの力になれるんだろう
あの哀しみを解く鍵は…。