水無月の紅玉
14 琥珀の運命
一番ひどいことを残そう。だから。
一番やさしいことをしてやろう。
"裏切った私"をあなたは憎み、呪い、責めるだろう。
誰よりも深い傷を負わせたと恨むだろう。
恨んで罵って誹って――あなたは疑うだろう。
苦しむだろう。
そしてもし――私があなたの中に深く刻まれる者であるのなら。
あなたは知りたいと思うだろう。
何故、なのか。本当、なのか。
もの
そしていつか、もうひとつ奥に沈められた真実に行き着くだろう。
あなたが知ろうと知るまいとかまわない、と投げ出された"本当"に。
あなたは――どうするだろう。
怒るだろうか。
嘲るだろうか。
いいや…
あなたはきっと哭くだろう。
私はいない、その時はいない。
"裏切り者"はもういない。
そうやって、あなたの中に残ろう。
そう思いながら生きた二年だった。
あなたを離れ――。
見つけてしまわなければ、よかったのだ。そうなのだろう。
戦いも、歪んだ優劣にこだわる憎み合いも。
愚かとわかっていても胸焦がす執愛も。
何も知らない少年に生まれたかったのが、あなたなら、
それに戻してあげよう。そう、もう何もなかったのだ。
望んだ仰木高耶という若者の生には、いつか健やかで暖かい愛がやってくる。
かつて美奈子と呼ばれていたあの魂のような伴侶と、
笑いあって歩いてゆくといい。
この生から次の流れへ。
あなたは行くといい。
もう振り向くまいと努力しなくてもいい。
背後を気にしなくてもいい。
何――もなかったのだから。
私などいなかったのだから。
俺はもうどこにもいないのだから。
どこにも――いなくなるはずだった。
炎が俺を引き戻した。
瞳の中に炎が。
ルビイ
紅玉のように。
おまえはオレのものだ。
どこへも行かせない。
去ることなど決して許さない。
炎に灼かれる琥珀。
それが逃れることのできない俺の運命なのだと。
紅玉の瞳が宣言した。
俺は今こそ膝をつく。
俺の独裁者、俺のたったひとり、俺を所有し奪い尽くす者。
あなただけに全てを
俺の何もかもを