早月の勾玉

       

       

        序 章

       

       仰木兄妹の父の葬儀は、市営の斎場で行われた。

       団地の自宅は狭すぎたし、集会所は老朽化が進んで昨年末から閉鎖されていた。高耶た

      ちの大伯母、星加幸子は未成年の二人の事実上の保護者になっていたので、自分の家でと

      言ってくれたのだが、亡くなった大伯父の知己――近しい親族は絶えていた――の中には、

      よけいなことを言ってくる者もあるかもしれない、迷惑はかけたくないと高耶は固辞した。

      その態度は以前のような頑なな大人への反発ではなく、大伯母の立場を慮ってのことと周

      囲に伝わったので、皆、その意見を受け入れた。

       静かな式だった。結局この一年を休学することにして実家に留まっていた成田譲とその

      母が、てきぱきとよく手助けしてくれた。また譲の"でっちあげ美談"で密かな英雄となっ

      た高耶見たさに、譲、高耶のかつての同級生、美弥の友人たちも参列したが――総じて

      静かな式だった。

       

       高耶は喪主として淡々と訪れる人々の悔みの言葉を受けていたが、時折その目は喪服の

      人の群れの上をさすらい、また戻る。厚くはないが、丈のある雑木林に囲まれた斎場は、

      静かで澄んだ翠の気配に包まれ、空は高く晴れていた。

      「世界はこんなにきれいなのに…」

       ふと傍らの美弥がつぶやいた。兄妹はともに空を見上げた。

      「世界はこんなにきれいなのにね…」

       それでも人は逝くのだ、と。

       

       

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