弥生の真珠
1・ 眠れる問い
…あれは、いつのことだったのだろう。
初メテ彼ト別レタ時
共ニ過シタ二番目ノ生
初メテ…分カタレタ時
名を呼び続けながら、浮上していくことは拒んでいた。
目を覚ましたなら、きっと逃れてきた恐怖に追いつかれる。
水の中にいるようだ。深くて静かな動きのない淵。時折、上の方で光がゆらいで音を…
声を…感じる。けれど…求めるものではないので、怖くて背を向ける。すると底のない暗
い深淵と向かい合う。
それは…深くて、とても深くて。
おそらく、そちらを選べばもう戻ってくることはできないと――知っている。
そこへ行けば、きっと慈悲深い忘却が待っている。
かつて、もう一度やり直せたら、と妄執に動かされて自ら記憶を封じた時のような甘っ
たれたものではない。
引き返せない忘却。愚かで心弱い自分も、その胸を傷つけ引き裂き続けてもつかんでお
きたかったただ一人のことも。
全て清め消し去ってくれる美しい無垢な忘却。
この悲しみも消える…。
たったひとり。欲しかったのは、たったひとりだったのに。
あの男の全部が欲しくて、いつまでも欲しくて。
永遠に欲しくて―――。
欲しがってほしい、いつまでも。永遠に。
オレだけを欲しがっていてほしい!
彼ハ死ンダ。アノ時、死ンダ。
オレガ死ナセタ。オレハ喪ッタ。自ラ死ナセタ。
ソシテ忘レタ。逃ゲタ。
モウイナイ彼ヲ疑ッタ。ナジッタ。責メタ。
――ただひとつ、わかっていることは、直江がオレの側にいないことだけだ。
卑怯モノ…。
もう上へなんか行かない。光の中へなんか行かない。
オレはもうオレ自身に愛想が尽きた。
(なおえ…)
直江…どうしたら自分を愛せる?
こんなどうしようもなく、信じられないほど無様な自分。
こんなオレをどうして愛せる?
――あなたを愛している。
直江、オレに教えてくれ。
教えてくれ、直江。
直江。